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京都家庭裁判所 平成9年(家)436号 審判 1999年8月20日

甲、乙、丙各事件申立人(丁事件相手方。以下「申立人」という)

甲、丙各事件相手方(乙事件事件本人、丁事件申立人。以下「相手方」という)

甲、乙各事件未成年者 A

丙、丁各事件未成年者 B

主文

1  申立人の甲、乙、丙各事件の申立てをいずれも却下する。

2  未成年者Bの親権者を申立人から相手方に変更する。

理由

第1  申立人は、「未成年者A(以下「未成年者A」という)の親権者を相手方から申立人に変更する(甲事件)」、「相手方の未成年者Aに対する親権を喪失させる(乙事件)」、「相手方は申立人に対し、未成年者B(以下「未成年者B」という)を引き渡せ(丙事件)」との各審判を求め、相手方は、主文2項と同旨の審判(丁事件)を求めるものであるところ、本件各事件及び当事者間のいずれも当裁判所平成3年(家イ)第×××、×××号夫婦関係調整、同居調停事件、同年(家イ)第×××号夫婦関係調整調停事件、同年(家)第××××~××××号面接交渉申立事件〔同年(家イ)第××××~××××号面接交渉調停事件〕、平成8年(家イ)第××××号面接交渉調停事件、平成9年(家イ)第××××号面接交渉調停事件の各記録によれば、次の事実を認めることができる。

1  申立人は、岡山県倉敷市の生まれでa大学文学部を卒業後、郷里で塾の講師をしていたところ、岡山市生まれでb大受験に不合格の後、郷里でトラック運転手をしていた相手方と絵画クラブで知り合い、申立人が昭和56年4月からc大学文学部に編入を受けて京都市に移住した後、相手方も同市の画商に住み込みで働くようになったことから、相手方の住み込み先で同年6月から同棲を始め、同月28日、婚姻の届出をし、双方間に、昭和57年○月○日に長男Cが、昭和59年○月○日に未成年者Aが、平成元年○月○日に未成年者Bが、それぞれ出生した。

2  申立人は、婚姻後、さらに大学院に進学して勉学と育児に追われ、家事の相当部分を相手方にさせるようになり、相手方は、トラック運転手、埋蔵文化財発掘のアルバイトと職を転じて収入が減少し、また、大学夜間部の入試も何度か受けたが、合格しないまま断念するに至るなどの諸事情から、当事者間には婚姻後日を経ずして口論、喧嘩が絶えなくなり、申立人が倉敷市の実家へもどるなど一時別居が操り返され、それに伴い当事者双方から、昭和61年4月から平成3年5月までの間に、いずれも当裁判所に対し、次のとおり、調停、審判の各申立て及び審判がなされた。

(1)  昭和61年4月16日、申立人申立て、夫婦関係調整調停事件〔同年(家イ)第×××号事件〕、同年11月17日、取下

(2)  昭和61年4月18日、相手方申立て、夫婦関係調整、同居調停事件〔同年(家イ)第×××、×××号事件〕、同年7月29日、取下

(3)  昭和62年8月19日、相手方申立て、夫婦関係調整調停事件〔同年(家イ)第××××号事件〕、同年11月11日、取下

(4)  平成2年9月21日、相手方申立て、夫婦関係調整、同居調停事件〔同年(家イ)第××××、××××同事件〕、同年12月19日、第××××号事件取下、平成3年2月20日、第××××号事件調停不成立

(5)  平成3年4月19日、相手方申立て、夫婦関係調整、同居調停事件〔同年(家イ)第×××、×××号事件〕、同年9月6日、第×××号事件調停不成立、第×××号事件調停をしない処分により終了

(6)  平成3年5月14日、申立人申立て、夫婦関係調整調停事件〔同年(家イ)第×××号事件〕、同年9月6日、調停不成立

(7)  平成3年5月20日、相手方申立て、面接交渉審判事件(同年(家)第××××~××××号事件)、同年9月6日、付調停〔同年(家イ)第××××~××××号事件〕、同日、調停不成立

(8)  平成4年2月24日、前項の審判事件につき、当裁判所の申立却下審判

(9)  平成4年8月31日、前項の審判に対する相手方の即時抗告につき、大阪高等裁判所の即時抗告棄却決定

3  申立人は、平成3年1月、長男C及び未成年者両名を連れて家出し、相手方には行く先を秘したまま、京都市内の母子寮にしばらく居た後、同年4月からは、長男C及び未成年者両名とともに倉敷市の実家へもどり、長男Cと未成年者Aを同市内の小学校に転校させた。しかし、その後、平成5年8月までの間、当事者双方間に、次のとおり長男C及び未成年者両名の連れ去りと連れ戻しが繰り返された。

(1)  平成4年8月23日、相手方が、申立人の倉敷市の実家から、無断で未成年者両名を京都市の相手方宅へ連れ去った。

(2)  平成4年9月6日、申立人が、相手方と話し合い、未成年者Bを、京都市の相手方宅から、倉敷市の実家へ連れ戻した(未成年者Aはその意思により相手方宅に残留した)。

(3)  平成5年4月12日、申立人が、相手方の不在中に、京都市の相手方宅から、未成年者Aを倉敷市の実家へ連れ去った。

(4)  平成5年6月23日、相手方が、倉敷市の小学校から、未成年者A(当時小学校4年生)を京都市の相手方宅へ連れ戻した〔以来、未成年者Aは、京都市の相手方宅に居住している〕。

(5)  平成5年8月8日、相手方が、申立人の不在中に、申立人の倉敷市の実家から、長男Cを京都市の相手方宅へ連れ去った(長男Cは、同月30日、その意思により倉敷市の申立人実家へ帰宅した。また、同月13~16日、申立人は、未成年者Bを連れて京都市の相手方宅に滞在したが、同月18日、未成年者Bを倉敷市の申立人実家へ連れ帰った)。

4  申立人は、平成5年7月、京都地方裁判所に、相手方に対し、離婚、長男C及び未成年者両名の親権者の申立人指定、未成年者Aの申立人への引渡、上記子3名の養育費の支払などを求める訴えを提起した〔同裁判所平成5年(タ)第××号事件〕。同裁判所は、同事件につき、平成7年1月17日、「申立人と相手方を離婚する。長男C及び未成年者Bの親権者を申立人と、未成年者Aの親権者を相手方と、それぞれ定める。申立人の慰謝料請求を棄却する」などの内容の判決を言い渡し、同判決につき申立人のなした控訴に対し、大阪高等裁判所は、平成7年10月18日、控訴棄却の判決を言い渡し、同判決は同年11月3日確定した。

上記京都地方裁判所の判決は、上記親権者指定につき、次のとおり判示している。「長男C及び二男Bの親権者は、現に同人らを養育している原告(申立人)と指定するのが相当である。Cと原告との間には、被告(相手方)と別居後も衝突があり、Cが負傷したこともあるが、すでにCは中学1年生であり、原告自身の精神的安定もあり、養育能力からして、問題はないと解され、むしろ、共同鑑定人らの鑑定結果によれば、これまでに度重なる転校等による葛藤があり、むしろ新たな環境変化を強いることは障害が大きく、そのような生活条件も整っていない」、「鑑定人らは、Aが現在の環境によく適応していること、被告との生活には、しつけや生活習慣の点で問題はあるものの、Aが小学5年生で、はきはきと明確に自分の意見を述べることができる子供であり、A自身の意思で京都に止まっていると解されること、被告にとってAは、10歳の子供というよりは、相談相手あるいは依存する相手にすらなっている状態にあり、Aもそのことを了解した共生的な関係にあることなどを指摘して、Aの親権者は、思春期に入って原告を必要とする事態、被告の経済的不安から生ずる事情の変化等を想定しつつも、現在は被告にすべきことを結論している。」

そして、上記大阪高等裁判所の判決は、これに加えて、次のとおり判示している。「Aは、現在小学校6年生(11歳)で、従来どおり京都で父親の被控訴人(相手方)とともに暮らしていくことを望んでおり、被控訴人は、府営住宅を明け渡さなければならない状況ではあるが、既にAが通学している小学校と同一校区内に住居を確保し、そこでAとともに生活し、月収23万円を得て、Aを監護、養育しているのであるから、現在においては、Aをその希望に反してまで、被控訴人から引き離して控訴人(申立人)に養育させることは、Aの福祉、幸福の観点からみても、妥当とは考えられない。したがって、Aの親権者を被控訴人と定めるのが相当である。」

5  上記離婚判決の確定後も、本件当事者間において、次のとおり、未成年者Bの連れ去り、連れ戻しが繰り返され、本件各事件に至る調停、審判の申立てがなされた。

(1)  平成8年6月ころ、相手方及び未成年者Aが、倉敷市の小学校から、未成年者B(当時小学校1年生)を京都市の相手方宅へ、バイオリンのコンサートに連れて行くために連れ去った(数日後、未成年者Bは、一人で倉敷市の申立人の実家へ帰宅した)。

(2)  平成8年8月8日、未成年者Aが、申立人の倉敷市の実家から、長男C及び未成年者Bを京都市の相手方宅へ連れ去った(同月27日、長男Cは、その意思により、申立人の倉敷市の実家へ帰宅した。未成年者Bは、以来、京都市の相手方宅に居住している。申立人は、同年9月初めころ、相手方宅に赴いたが、未成年者Bは倉敷市に戻ることを拒み、連れ戻すことはできなかった。また、同年9月27日、京都市児童相談所で、当事者双方及び未成年者両名の話し合いが持たれたが、未成年者両名が拒んだので、申立人との面接もなされないまま、話し合いは終了した)。

(3)  平成8年9月14日、申立人が、当裁判所に、相手方に対する未成年者Bの引渡を求める調停を申し立てた〔平成8年(家イ)第××××号事件〕

(4)  平成8年10月28日、申立人が、未成年者Bを、登校していた小学校からタクシー、d電車、新幹線を乗り継いで、倉敷市の申立人の実家へ連れ去った(その際、車内で未成年者Bがあまりに泣き騒いだので、タクシーの運転手が警察へ通報した)が、これを知って直ちに後を追った相手方が先に着いていて、即日、未成年者Bを京都市の相手方宅へ連れ戻した。

(5)  上記第××××号調停事件については、当裁判所調査官の事前調査を経た後、平成8年11月27日から平成10年8月7日まで16回の調停期日を重ね、第2回、第3回、第4回、第11回の各期日には、申立人と未成年者両名(第4回期日は未成年者Bのみ)との面接がなされたが、倉敷市の申立人の実家へ戻るよう勧める申立人に対し、未成年者Bは、「倉敷に帰ればお母さんに殴られる。お母さんは殴るから嫌いだ。お母さんは嘘つきだ。お母さんはいつも酒を飲んでいる」などと述べ、未成年者Aも、「兄に会いたいが、母と過ごすのは私もB君も嫌だ。母を信頼していないから、母と積極的に会ったりしたいとは思わない」などと述べて、ともに頑強の申立人の勧めを拒む態度を取り続け、申立人も、第14回期日以降3回連続して不出頭を続けたので、平成10年8月7日の上記第16回期日において、同調停事件は、合意の成立する見込みのないものとして終了させられ、「本件丙事件」に移行した。

(6)  上記第××××号調停事件の申立て後に、当事者双方から、当裁判所に対し、次のとおり、調停、審判の申立てがなされた。

<1> 平成8年9月27日、申立人申立て、未成年者Aとの面接交渉調停事件〔同年(家イ)第××××号事件〕、平成10年8月7日、調停をしない処分により終了

<2> 平成9年2月12日、申立人申立て、未成年者Aの親権者変更審判事件(同年(家)第436号事件。「本件甲事件」)、同月14日、付調停〔同年(家イ)第×××号事件〕、平成10年8月7日、調停不成立(「本件甲事件」に移行)

<3> 平成9年10月27日、相手方申立て、長男Cとの面接交渉調停事件〔同年(家イ)第××××号事件〕、平成10年8月7日、取下

<4> 平成10年4月15日、申立人申立て、未成年者Aにつき相手方の親権喪失宣告審判事件(同年(家)第1393号事件。「本件乙事件」)

<5> 平成10年11月25日、相手方申立て、未成年者Bの親権者変更審判事件(同年(家)第4326号事件。「本件丁事件」)

(7)  上記第××××号調停事件の申立て後に、当事者双方、長男C、未成年者両名の間に、次のような出来事があった。

<1> 平成9年4月23日、申立人は、上記第××××号調停事件の第5回期日終了後、未成年者Aが登校していた中学校を訪ね、未成年者Aに会おうとしたが、未成年者Aが面接を拒否した。

<2> 平成10年2月22日、相手方は、トラック運送の仕事を利用して、未成年者両名をトラックに乗せ、倉敷市の申立人の実家へ連れて行き、1泊させて翌日京都市の相手方宅に連れ帰った。

<3> 平成10年6月20日ころ、申立人は、未成年者Bを登校していた小学校に訪ね、未成年者Bが振り切って帰宅したので、夕刻に相手方宅に赴き(相手方不在)、未成年者両名と1時間ほど話したのち、相手方宅での宿泊を未成年者両名に断わられて、倉敷市に帰った。

<4> 平成10年8月6日、長男Cは、相手方のトラックに便乗し、数日滞在の予定で相手方宅を訪れ、翌7日には、上記第××××号調停事件の最終期日に、相手方及び未成年者両名とともに出頭した。

<5> 上記第××××号調停事件が不成立となった後、申立人は、平成10年12月18日、平成11年1月ころ、同年2月13日、同年7月29日に京都市の相手方宅に未成年者両名を訪ね、未成年者両名と買物や食事などの面接交渉をした。

6  申立人は、倉敷市の実家に居住し、私立高校の非常勤講師や学習塾の講師をして月収12~13万円を得ていたが、平成10年1月からはe福祉センターの臨時指導員として勤務している(申立人は、本件各審判事件についての当裁判所調査官の調査面接を拒否しているので、上記第××××号調停事件に出頭した最終期日である、平成10年2月18日以後の稼働状況及び本件各審判事件についての意向は、すべて不明である)。

申立人は、上記のように大学院進学などの事情もあって家事や育児に専念したことがなかったことやその性格上、人格上の何らかの問題から、これまでに長男C及び未成年者両名の誰とも良好な母子関係を築くことができず、特に未成年者両名との母子関係は、上記認定の経緯から明らかなように、未成年者両名、特に未成年者Bにとって緊張感を伴うものとなっている(上記の家庭内紛争の継続に起因するものとしても、申立人がアルコール依存的傾向にあって、家事、特に料理が不得手であることも、未成年者両名との良好な母子関係の形成の妨げになっていることが窺える)。そのため、未成年者両名は、申立人を全く拒絶している訳ではなく、かなり頻繁に電話で申立人と話をしたり、たまに会えば懐かしく思わないわけではなく、上記のように、申立人が、突然に、京都市の相手宅に未成年者両名を訪ねてくれば、一緒に話をしたり、食事をしたりはしている(相手方は、未成年者両名と申立人との面接交渉についても、未成年者両名の意思に任せている)が、倉敷市の申立人の実家で同居することは頑強に拒んでいる。また、申立人宅に同居している長男C(平成9年4月からf高校に進学しており、現在高校3年生)にしても、かつて申立て人とは取っ組み合いの喧嘩で頭に治療を要する怪我を負わされたことがあり、最近では離れと母屋に別れて生活していて、ほとんど日常の会話もない状態にある。しかし、申立人は、他罰的傾向が強く、例えば、自己の未成年者両名への対応の仕方が、未成年者両名の上記のような反発を生んでいることにも気付くことなく、これまでのところ、自己の問題点には全く目を向けようとはしていない。

7  相手方は、トラック運転手として稼働していたが、上記離婚判決が長男C及び未成年者Bの親権者を申立人と指定したことやその事実認定にショックを受け、平成7年12月にg病院精神科を再受診し、「抑鬱状態(但し、精神病を疑う余地はない)」との診断を受け、半年ほど投薬を受けていたことがあり、同年10月にトラック運転中に事故を起こしたこともあって解雇され、生活保護費月額18万円を受けて生計を立てていた。平成9年11月からは再びトラック運転手として稼働を始めたが、平成10年11月ころ、勤務先でのトラブルと抑鬱状態の再発から失職し、現在はまた生活保護費により生活をしている状況にあり、果して通常の稼働能力があるのか疑わしい。また、相手方は、家屋内の整理、整頓や清掃といった基本的な生活習慣をほとんど欠いていて、室内や台所は長期間掃除がなされておらず、家具や古道具、ゴミが山積、散乱している常況にある。しかし、相手方は、○○のバザーで格安の衣類や食器などを買うなどの工夫をし、洗濯はコインランドリーを利用し、入浴は銭湯に行っており、未成年者両名の服装、身体には不潔感は認められない。

相手方は、本件各事件に関しては、争いをしたくないので、未成年者らの意思、希望を尊重して解決してほしいとの意向である。相手方は、従来、未成年者両名の意見もよく聞き、未成年者らに対し、勉強の無理強い、その他の生活への千渉をしないし、申立人に代わって家事をすることが長かったので料理は申立人より上手で、夕食は相手方が作ることもあり、そのため、緊張感を伴う申立人との母子関係に比し、相手方と未成年者両名との父子関係は良好であって、未成年者両名は、経済的困窮や家屋内の乱雑さにもかかわらず、後記のように相手方宅での現在の生活の継続を望んでいる。

8  未成年者Aは、平成5年6月23日(当時小学4年生)以来、その意思により相手方宅に居住していて、平成8年4月、h中学校に入学したが、成績も優れていて、平成10年11月には、京都市の△△の詩の朗読コンクールで最優秀賞をとっており、平成11年4月からは、京都市の就学援助金、育英会の奨学金の支給を受けて授業料など必要経費を賄いながら、i高校(進学コース)に進学し、病院で患者の介護などのアルバイトに1日2時間、週に2~3回行って時給1000円を得ており、ESSなどのクラブ活動やその他の社会活動に充実した高校生活を送っている。

未成年者Aは、ハキハキと自分の意思や考えを明確に表現することができ、また行動力もあって、長男Cと申立人との間に取っ組み合いの喧嘩があったころの平成8年2月~3月には、当時まだ小学6年生であったのに、長男Cを気遺い、1人で長男Cの通学する倉敷市の中学校へ赴き、同校の教師らに「申立人が長男Cを虐待しているから、法務局へ行く」旨訴えたり、実際に倉敷市の法務局へ人権相談に行ったりしている。また、未成年者Bに対しては、従来、特に親愛の情が強いことから、京都の相手方宅へ引き取ることを企て、上記のように、平成8年8月8日、まだ中学1年生であったのに、1人で倉敷市の申立人の実家に行き、長男C及び未成年者Bを京都市の相手方宅へ連れて行き(以来、未成年者Bは京都市の相手方宅に留まり、現在に至っている)、未成年者B(当時小学1年)の京都の小学校への転入手続に際しても、相手方と一緒に相手方宅が校区である後記の小学校へ行って校長と折衝をし、その後も未成年者Bの通学に関し、相手方以上に何かと世話を焼いており、むしろ、相手方に代わって未成年者Bの母親代わりの役割を果している。さらに、未成年者Aは、上記第××××号調停事件の相手方調査期日や調停期日において、内心の意思や考えを端的に言葉で表現することが不得手な相手方を気遺って、これに同席し傍で代弁することがしばしば見られるうえ、3人の朝食を作り、弁当も自分で詰めるなど、むしろ、精神的、物質的に相手方を支えており、本件紛争において未成年者Bを挟んで申立人と対峙している実質的な相手も、相手方というよりは、むしろ未成年者Aであると言ってもよいような状況にある。

未成年者Aは、上記第××××号調停事件の調停期日におけると同様に、その後の当裁判所調査官の調査においても、今後も京都の相手方宅で相手方及び未成年者Bと一緒に親権者を父として生活して行きたい旨述べている。

9  未成年者Bは、平成8年8月8日(当時小学1年生)以来相手方宅に居住していて、同年9月18日からj小学校に転校し、現在小学4年生であるが、健康状態は良好で元気に通学しており、授業中の態度や級友との関係は普通であり、素直で明るい性格の生徒で友人も多く、学校生活上取り立てて問題とすべき点はない。同年10月28日の、上記申立人の連れ去りと相手方の連れ戻しの後は、緊張が取れて伸び伸びとしてきて、級友とも気楽に無駄話するようになり、級友に申立人の悪口を言わなくなった(担任は、申立人に連れ去られる不安がなくなったからだと見ているが、未成年者Bは、当裁判所調査官の調査において、今でも突然申立人が京都市に未成年者両名を訪ねてくると、倉敷市に連れ帰られるのではないかと緊張する旨述べている)。相手方宅で居住することとなって以来、相手方以上に何かと未成年者Bの世話を焼き、むしろ、相手方に代わって未成年者Bの母親代わりの役割を果している未成年者Aとの姉弟関係も良好である。

未成年者Bも、上記第××××号調停事件の調停期日におけると同様に、その後の当裁判所調査官の調査においても、今後も京都の相手方宅で相手方及び未成年者Aと一緒に暮らして行きたい旨述べている。

第2  以上に認定の諸事実関係のもとにおける当裁判所の判断は、次のとおりである。

1  本件甲事件について

本件甲事件は、申立人が、未成年者Aの親権者を相手方から申立人に変更することを求めるものであるが、上記離婚判決及び控訴審判決に判示された未成年者Aの親権者を相手方と定めた理由や、上記認定のとおり、未成年者Aが、平成5年6月23日(当時小学4年生)以来、現在に至るまで相手方宅での生活を続け、成績優秀で奨学金などを受けて府立高校に進学し、現在充実した高校生活を送っていること、未成年者Aは、相手方との父子関係も良好で、相手方の上記認定の稼働能力の低さにもかかわらず、自ら奨学金やアルバイトなどでこれを補い、むしろ相手方を支えつつ、相手方を親権者として今後も生活していくことを望んでいること、他方で、上記認定のように、未成年者Aと申立人との母子関係は良好なものではなく、また、申立人の家事能力や稼働能力も相手方に比してさほど高いわけでもなく、今この時点で高校を転校してまで倉敷市で申立人との同居生活をさせても、未成年者Aにとって益するところがあるとは認め難いことを考え合わせると、現時点において、未成年者Aの親権者を相手方から申立人に変更することが、未成年者Aの福祉に沿うものであるとは、到底認めることができない。

2  本件乙事件について

本件乙事件は、申立人が、未成年者Aの親権者である相手方の親権の喪失の宣告を求めるものであるところ、相手方は、上記認定のとおり、抑鬱状態から容易には回復せず、現在も生活保護費により生活をしていて、通常の稼働能力があるのか疑わしく、家屋内の整理、整頓や清掃といった基本的な生活習慣をほとんど欠いているなど、その生活上の問題点は存するけれども、前項に述べた諸事情を考え合わせれば、それらの問題点は、まだもって、民法834条に定める「親権を濫用し、又は著しく不行跡であるとき」という親権喪失を宣告すべき事由に該当するものとはいえない。

3  本件丙、丁各事件について

本件丙事件は、未成年者Bの親権者である申立人が、相手方に対し未成年者Bの引渡を求めるものであり、本件丁事件は、逆に、相手方が、未成年者Bの親権者を申立人から相手方に変更することを求めるものである。

そして、上記認定のとおり、未成年者Bは、平成8年8月8日(当時小学1年生)以来、現在に至るまで相手方宅での生活を続け、現在小学4年生であり、健康状態も良好で、素直で明るい性格に生育しており、学校生活上取り立てて問題とすべき点はないこと、未成年者Bは、相手方との父子関係も良好で、今後も京都の相手方宅で相手方及び未成年者Aと一緒に生活していくことを望んでいること、相手方には上記のような生活上の問題点が存するけれども、上記のとおり、従来、未成年者Aが相手方に代わって未成年者Bの母親代わりの役割を果しており、その未成年者Aとの姉弟関係も良好であること、他方で、上記のように、未成年者Bと申立人との母子関係は良好なものではなく、また、申立人の家事能力や稼働能力も相手方に比してさほど高いわけでもなく、今この時点で転校してまで倉敷市で申立人との同居生活をさせても、未成年者Bにとって益するところがあるとは認め難いことを考え合わせると、現時点において、未成年者Bの申立人への引渡を命じることが未成年者Bの福祉に沿うものであるとは到底いえず、逆に、未成年者Bの親権者を申立人から相手方に変更することが、未成年者Bの福祉に沿うものであるというべきである。

第3  以上のとおりであって、申立人の申し立てにかかる本件甲、乙、丙各事件については理由がないから、いずれもこれを却下することとし、相手方の申立てにかかる本件丁事件については理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山崎杲)

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